Story

Old and New my Gabbehオールドギャッベと暮らす3つのストーリー

story01
「こぼしちゃだめよ」with your life

小さい頃、よく母に「こぼしちゃだめよ」と言われたものだった。
それでも、お菓子を食べれば服や絨毯の上にボロボロとカスがこぼれたし、私は飲み物もよくこぼす子供だった。
記憶に残っているのは、クリスマスの前の日だ。いつものように母が選んでくれたオレンジジュースは、やはり数秒後に赤い絨毯の上に広がった。
「これじゃあサンタさんがこないよ」と叱られ、私はひどく泣いた。そして、結局叱ったはずの母が私を慰めるはめになったのだ。
翌朝、枕元にはクリスマスプレゼントが置いてあった。絨毯にこぼしたジュースの跡は、もうほとんどわからなくなっていて、私がそれが不思議で今度は丁寧にシミを探しはじめた。
不規則に濃淡が施された赤い絨毯を見つめて「この柄はこぼしたジュースで出来ているのでは?」と疑ったり「実は魔法の絨毯なのでは?」と疑ったりした。私はそんな空想の時間が好きだった。
まだ4歳の私の娘も、やっぱりよく食べ物や飲み物をこぼす。母と同じように「こぼしちゃだめよ」と言いながら、もう何度この絨毯を拭いただろう。
小さな手でコップを握る娘の下には、あの日の絨毯が敷いてある。
いつか、彼女もここで空想を楽しむのかもしれない。
だから、ちょっとくらいこぼしたっていいんだよ。

story02
「ヴィンテージ」with your favorlite

新品にはこだわらない。
時代や誰かの手を経て、深みを帯びたものが好きだ。モノも、人も。
私たちは、ひと回り以上歳の離れた結婚だった。夫が新居に持ち込んだのは、新品ではない絨毯。そこはかとなく漂う過去の気配も含め、私はそれを受け入れた。
私たちは「いつかの時間」に夫婦の足跡を重ねて過ごした。新婚を経て、子供が育って家を出て、二人きりに戻った今も、その絨毯の過去は知らない。
今年は結婚30年目で、どうやら真珠婚式というらしい。夫にいわせると「ヴィンテージ」で、この絨毯を買った年と同じだと笑った。

story03
「オールドライオン」with your music

テレビで観た海外バンドのドラマーは、絨毯の上で暴れるように演奏していた。当時はそれが刺激的で、強烈に憧れた。
絨毯が「オールドギャッベ」だと知ったのは約半年後。バイト代が貯まった頃だった。ただ、背伸びをしてやっと手にした一枚を乱暴に扱うことは到底出来なかった。
それから社会人になって結婚して、ようやく建てた新居の片隅には、当時より色艶を深めたあの絨毯が敷いてある。
凛と佇むオールドライオンは、家を守る強さの証。きっと今の僕には似合っているはずだ。