- story01
- 「こぼしちゃだめよ」with your life
小さい頃、よく母に「こぼしちゃだめよ」と言われたものだった。
それでも、お菓子を食べれば服や絨毯の上にボロボロとカスがこぼれたし、私は飲み物もよくこぼす子供だった。
記憶に残っているのは、クリスマスの前の日だ。いつものように母が選んでくれたオレンジジュースは、やはり数秒後に赤い絨毯の上に広がった。
「これじゃあサンタさんがこないよ」と叱られ、私はひどく泣いた。そして、結局叱ったはずの母が私を慰めるはめになったのだ。
翌朝、枕元にはクリスマスプレゼントが置いてあった。絨毯にこぼしたジュースの跡は、もうほとんどわからなくなっていて、私がそれが不思議で今度は丁寧にシミを探しはじめた。
不規則に濃淡が施された赤い絨毯を見つめて「この柄はこぼしたジュースで出来ているのでは?」と疑ったり「実は魔法の絨毯なのでは?」と疑ったりした。私はそんな空想の時間が好きだった。
まだ4歳の私の娘も、やっぱりよく食べ物や飲み物をこぼす。母と同じように「こぼしちゃだめよ」と言いながら、もう何度この絨毯を拭いただろう。
小さな手でコップを握る娘の下には、あの日の絨毯が敷いてある。
いつか、彼女もここで空想を楽しむのかもしれない。
だから、ちょっとくらいこぼしたっていいんだよ。